2019年1月。いまパリで一番新しいと若い世代から注目されている11区。おしゃれな店や流行りの店が多く、パン屋も新世代の有名店が密集している地域。このパン屋激戦区に名乗りをあげた「フレンチバスターズ」。
人を喰ったような名前に、美味しいコーヒーを出すコワーキングスペースのようなすっきりしたデザインの店舗。最初、店の前を通りかかってもパン屋だと気づかず、その後パン屋かも?と思ってもしばらく中にはいる気がしなくて何度も素通りしていた。
ある日、お目当てのパン屋に行くと、買おうと思っていたパンが売り切れていた。こういう時は、違う種類を買うよりも一旦仕切り直しで「どのパン屋に行くか」から考え直す。
ふと新しいパン屋に挑戦してみようかという気になって、ザフレンチバスターズへ。
中に入ってもパン屋っぽくない。ショーケースが店の一番奥にあり、手前は広いフリースペース。気のあう仲間がお酒やコーヒーを片手に集まるような、おしゃれなカフェバーという感じ。
ずんずん店の奥に行く。手前にフレッシュで具沢山の美味しそうなサンドイッチ、次にすっきり美しいフォルムのケーキ類が並んでいる。見るからに新鮮で美意識が高い。これは期待できるかもしれない。
バゲットや計り売りのパンはカウンターの奥に置いているのが一般的で、レジのお兄さんお姉さんの身体越しに何があるかを確認することになる。
このあたりのパンをじっくり選びたい場合、「えっと・・、何にしようかな」とか「ちょっと待ってね」などと呟き続けるか、「ライ麦パンある?」とか「そのパンは何?」などと話しかけないと間が持たない。なので、せっかちな人や感じの悪い店員がいるお店だとろくに選ぶ時間もなく説明もしてもらえないので、美味しくても感じがよくない店は敬遠したくなる。
さて、ザ・フレンチバスターズでの初選択。カウンターの奥をじっくり眺めながら、いい感じのTourte de Seigle(ライ麦パン)があるのが見えているので、「ライ麦パンがいいんだけど〜」とつぶやいてみる。感じの悪い店員であれば、これね!と、さっさとそのライ麦パンを袋に詰められて終了となるところだが、強面のお兄さんは意外にも「このカンパーニュにもライ麦が入っているし・・」と丁寧に説明を始めた。ナイス、かなり感じがいい。
「じゃあそれと・・・、その茶色い・・・Bâtarde??」と聞くと、「これもBioのライ麦と全粒粉が入ってるバゲットだよ。うまいよ〜!」というので Baguette Bâtarde(バゲットバタード)も購入。
Bâtardとは・・・
読み方:
バターr(バターの最後にフランス語のアール)。女性形ならbâtardeとなってdも発音するのでバタードゥって感じになる。・・んだが、ややこしいことを考えずにただ「バター」って言うだけの方が通じると思う。
Bio(ビオ/オーガニック/有機)の粉を使っている店は、あちこちに「Bio」と表示しているものだが、BioとかいてなくてもBioの粉。価格も1.3€なので、一般的なバゲットと同じ。かなり良心的。さらにお兄さんの説明もよかったので、相当気分がいい。
帰り道、ふわふわといい匂いがやたらと私の周りに漂っている。このバゲットバタードを背中のリュックにさして歩いていたのだが、ものすごくいい匂いなのだ。店の中ではさほど匂いを感じなかったのは、広々とした店内と高い天井のせいだったのだろうか。
ともかくいい香りに包まれて帰宅。家についてからも、キッチンにおいたパンがやたらといい匂いを放つので、たまらずちぎって一口。
ちぎった感触はやや皮が固めでひきが強い感じ。
何もつけずにそのまま口に放り込む。むちっとした食感。しっかり空気が抜けているので、口の中には長く残らずすっと消える。全粒粉とライ麦の割合が高く、噛み締めると旨味がぎゅっぎゅっと滲み出てくる。
香りもとても良く、鼻から抜ける粉の匂いは甘くて香ばしくて・・。ふわふわと顔の周りに焼きたてのパン屋に充満する幸せの香りが再現される。
クラム(パンの中身)をじっくり味わうと、ほのかに発酵臭と酸味。一口のつもりが、次々にちぎってはどんどん口に運んでしまう。ちぎる時に固いと感じた皮は口に入れると硬さを感じず、中の力強い生地とよくあって丁度いい。綺麗なクープ周辺のがりっとした食感と香ばしさがちょこちょこでてきて、かなり美味しい。
晩御飯に・・と思って買ったバゲットはたちまちなくなり、2本買わなかったことを後悔した。
皮の香ばしさ、粉の甘い香り、中の酸味や食感。久々に美味しいバゲットを発見した!という喜び。しかも、毎日家族で安心して食べられる非精白パン。さらにBio。もう一つおまけに価格が普通のバゲットと同じ。非の打ち所がないではないか。
我が家のバゲットはこれで決まり。長らく続けていたバゲットジプシーの旅が終わった。
その後もザ・フレンチバスターズには足繁く通い、レジ後ろのパンジャンルは制覇した。とにかくバゲットバタードが一番のおすすめだが、よくマスコミに取り上げられてこの店の看板パンになっている「Cruffin」を紹介する。
ザ・フレンチバスターズのアイコン「チョコレート・クラフィン」
Cruffinとは・・・
読み方:
英語:クラフィン フランス語:クルファン
どんなパン?:
オーストラリア生まれ、アメリカ・サンフランシスコ育ち。パリで修行したオーストラリア人シェフが開発し、サンフランシスコで一躍人気者になったスイーツ系パン。
クロワッサン生地をマフィン型で焼き上げたものに、さまざまなフィリングを詰めたもの。
ザ・フレンチバスターズの名物「クラフィン」は、小ぶりなサイズで2.90€(2020年2月現在)。パン屋のヴィエノワズリー(甘パン)プライスで考えるとやや高め、ケーキ感覚で考えると安めというなかなか憎い価格設定。
さて、味の方は。
生地はバターの香りがはっきりと感じられて、フランスのパティスリーの基本の「しっかり焼き」。香ばしい香りとガリっとパリッとしたクリスピーな歯応えがかなり心地いい。
振りかけられたカカオパウダー、フィリングのチョコレート。かなり上質のものを使っている。カカオの香りは素晴らしく、濃厚で口にもったりと残るカカオのテクスチャーは、新鮮でリッチで至福。正直、パン屋でここまでのクオリティのチョコレートを使っているのに驚いた。パンとして・・というよりは、パティスリーとして少しずつ丁寧に食べてあげたい部類。数日前に某T.M氏の有名な同型のパンを食べ、名前で売れるとここまで質が落とせるんだなと思ったところだったので、新しい彼らの意気込みに拍手喝采したい気分。
買った時にサイズは小さめ、重さはずしっとしてるから、値段相応なんだろうか、などと考えたけれども、この材料でこの価格だと相当良心的だ。
ザ・フレンチバスターズは、新進気鋭と言われる他の店と違って、どちらかというと露出や宣伝は少なめ(というか苦手なんだろうか)で、無骨な感じだが、とにかくいい材料を使ってしっかり作っている。良心的な「いいヤツら」だ。
宣伝上手ではなくても、あれよあれよと人気店になったのは、味を求める人が宣伝に惑わされずにきちんと辿り着いた結果だと思うと、嬉しい。奇抜だと思った名前もだんだん馴染んできて店のコンセプトやパンの味に似合っていると感じるようになった。「いいやつ」と親しみをこめてタメ口をききたくなる、そんなパン屋だ。
++ Information ++
The French Bastards(ザフレンチバスターズ)
Oberkampf オベルカンフ店本店
https://thefrenchbastards.fr/
[Open / 営業日時 ]
水曜日〜金曜日 8:00 am-20:30 pm
土・日曜日 8:30 am-18:00 pm
月・火曜日 休み
[Adresse / 場所 ]
61 rue Oberkampf, 75011 Paris FRANCE
[GoogleMap / グーグルマップ ]
https://goo.gl/maps/ZY9y2CQ9wPteBuo46
そういえば店にはドラゴンボールのフィギュアがあちこちに置かれていた。日本贔屓?という気もしなくはないが、今のところその片鱗は発見していない。
オベルカンフ店に通うようになって、1年ほどたった頃、さらに近所のパリ2区に2号店ができた。オベルカンフでも歩ける範囲に店があってよかったと思っていたが、2号店は毎日のように前を通るので夕方店の前を通りかかると念の為・・とバゲットを買い足すことがさらに増えた。
どちらにしても何回食べても間違いがない味だ。
2号店の様子や、「絶品バゲット・Baguette Bâtarde(バゲットバタード)」の動画は以下のページで紹介しているのでご覧ください。
ザ・フレンチバスターズの2号店はこちら
私の押しバゲット「バゲットバタード」紹介動画も以下で