フランスの人気テレビ番組「La Meilleure Boulangerie de France(フランスのベストブランジェリー)」で2016年にチャンピオンになった店。2014年に開店してから2年後、地域の人気の店から一気にパリの超人気店になった。
レピュビュリック広場からヴォルテール通り(Boulevard Voltaire)に入り、そこからさらに小道へと少し歩いたところ。決して分かりやすい場所にある店ではないが、テレビチャンピオンに輝いてから数年たった今もいつも行列ができている。
まず、ここのパンは見た目が整っている。自家製(fait maison)のブランジェリーのパンは、同じパンでも形やクープの開き具合が結構違うものなのだが、ユートピのパンは個体差が少ない。
全てのパンに気を配って作っているというプロ意識もあると思う。が、全てのパンに於いて、水分量が少なめなのも、形がととのっていることの理由の一つだと思う。
そんなわけで定番のバゲットトラディショネルも水分は少なめ、粉の旨味はさほど感じない。料理や飲み物なくこのバゲットだけを食べるのはちょっと無理かなという感じ。カンパーニュ系も水分量が少なめで、旨味も薄め。ただ、この店のアイコン的な存在でもある炭のバゲットはいける。炭のような水分を吸いやすい素材を入れると、パンはどうしても堅く締まってくるので、高加水のパンを売りにしている店のパンとは相性がよくないのだろうが、ここのパンの味とは相性がいい。プレーンなバゲットだと旨味を感じないパンが、逆にこの副素材を使うことで、ムチムチとより噛み締める必要がでてくるので旨味を感じることができるようになる。
※炭に味があるわけではなく、炭の性質が食感を変化させるので旨味を感じやすくなるという説明の方が分かりやすいだろうか? 炭入りのパンは最近パリの他の店でもよく見かけるようになってきたが、健康のために・・という名目で売られているので、普通のバゲットより炭入りの方がいけるという評価は何か違うのかもしれないが。
他にも抹茶やごまといった素材もよく使われているので、好きな素材なんだろうなと思う。パティスリーにもよくゴマが使われている。上の写真のエクレアの一番左のグレーズはゴマ入り。
ここまであまり褒めていないので、だったらなんでそんなに人気があるんだ?とか、なぜあなたは何回も行っているのか? と思われるだろう。
よく通りかかる道にあるとか、飛び上がるほど美味しいとは思わないけれど他のパン屋さんよりは十分に美味しいとか、値段が手頃とか、理由はいくつかあるが、一番大きなこの店の魅力は「わくわく感」だと思う。
前述の通り、ここのパンは整っていて美しい。疲れてとぼとぼ歩いている帰り道にふっと見ると綺麗なパンが見えると、一つ買って帰るかな?という気になる。
そして行列を絶やさない一番の秘訣は、毎週末限定の商品を作ることではないかと思う。そしてそれを毎週SNSに載せている。他のパン屋でもWebSiteを持っている店も多いし、SNSで情報を発信するのも最近の流行りだが、残念ながらかなり適当。オープン当初に作ってそのまま・・とか、思いついた時にだけ更新しているぐらいの店が大半で営業時間やバカンスの予定さえ記載していない。
ところがユートピのSNSは毎週きちんと限定パンの案内が来るし、なにより驚くのはメッセージにきちんと返信がくること。パン屋に限らずフランスでは「問い合わせ」に対して返事が返ってくる率はかなり低い。返事があるとしても、今頃返事されても意味がないというぐらいに遅い。
クリスマス・年末が近づくと、パン屋も長期の休みをとることが多い。せっかくのクリスマスや年末年始、美味しいパンを食べて過ごしたいと思うので、パン屋の営業日程のチェックを入念に行う。
そんなわけで、2020年の年末。いつも以上にSNSを頻繁にチェックしていたら、ユートピでは12月24日と12月31日限定のパンを作るという。レモンピールのライ麦パン(Le Seigle aux Citrons Confits)、いちじくのカンパーニュ(La Figue)、黒トリュフのパンドミ(Pain de Mie à la Crème de Truffe)。 予約をした方がいいようだが、メールか電話でもいいのかな?とメッセージを送ってみたら「ごめん!店頭でしか予約受け付けてないの。当日に運がよかったら予約なしでも残ってるかもしれないけど・・」という返事がきた。フランスでこういう問い合わせに返事をもらったことはないので、今回も返事はあまり期待せず、もし買えたらラッキーぐらいな気持ちで連絡したのだが、こんなに感じのいい返事をもらったら予約するしかない。
ライ麦は好きだし、いちじくのドライフルーツも好き、トリュフはお祝い感満点だし、というわけで結局3種類とも予約した。
大晦日の12月31日。店に到着するといつもに増しての長蛇の列。ああ、予約してよかった!と行列を横目に予約の紙を渡してパンを受け取った。
レモンピールのライ麦パン(Le Seigle aux Citrons Confits €4.2)は、ユートピの個性というか乾燥気味の生地でパサツキ感があって旨味が足りなかったが、いちじくのカンパーニュ(Pain à la Figue €3.8)は結構おいしかった。そして黒トリュフのパンドミ(Pain de Mie à la Crème de Truffe €4.8 ※普通のパンドミは€2.8)は買ってよかった。さっくりとしたブリオッシュ生地のパンドミで、バターの香りがよく、トリュフの香りもしっかり。この店はゆっくり発酵した方が美味しいパンよりこういうパンの方が美味しいのかもしれないと思った。パティスリーもラデュレ出身のシェフが担当しているので、パンよりヴィエノワズリーやパティスリーの方が味がいいのかも。
そしてまた今年もユートピに行ってしまうんだろうな、と、何か術中にはまったような気がした。
魅せ上手。一言で言えばこれがユートピの魅力ではないかと思う。
行くのがなんとなくワクワクする感じ、ちょっとテンションがあがる、そんなパン屋さん。舌だけではなく心にもちょっと栄養を与えてくれる店。
ちなみに人気店だけあっていつも店員さんが多くいる。入れ替わりも激しいようで毎回違う人に会う。残念ながら、商品について知らない人も多いので、定番のパンでも、限定パンでも、「ない」とあっさり言われてしまうことがある。どうしても食べたいパンがあるならば、「いやいや、そこにあるやつ、●●じゃない?」とか「じゃ、それはなに?」とか突っ込みながら、買うことをおすすめする。
++ Information ++
Boulangerie Utopie(ブランジェリー ユートピ)
[Open / 営業日時 ]
火曜日〜日曜日 7:00 am-20:00 pm
月曜日 定休日
[Adresse / 場所 ]
20 Rue Jean-Pierre Timbaud,
75011 Paris FRANCE
[GoogleMap / グーグルマップ ]
https://goo.gl/maps/gPKPBqLWim4H7cJH9
ユートピの炭バゲットの動画はこちら
2020年末の限定パン・黒トリュフのパンドミの動画はこちら